2013年3月25日月曜日

若い世代の利益より古い世代の利益を優先してきた日本:

_



JB Press 2013.03.25(月)  Financial Times
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/37421

(2013年3月21日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)By David Pilling

高齢者から奪い、若者に与える安倍首相は正しい

  日本の新政府が導入したリフレ信仰「アベノミクス」に対する1つの異議は、それが苦労して手に入れた貯蓄を目減りさせることだ。
 欧州のある地域で流行になったように、週末に貯蓄を取り上げる代わりに、政府は緩やかなインフレによって貯蓄を徐々に吸い上げたいと思っている。

 これは卑劣な計画だ。
 この計画が、日本の人口の4分の1を占める一方、
 膨大な家計資産の3分の2を支配する60歳以上の人たちの人気を集めることはないだろう。
 それでもやはり、この計画は名案だ。

■若い世代の利益より古い世代の利益を優先してきた日本

 この世代間の窃盗を歓迎する理由は、
 日本が20年間にわたり、若い世代の利益よりも古い世代の利益を優先してきたからだ。

 これは不公平なだけではない。
 若者を不利にすることは、国の未来を築く最善の方法でもない。
 インフレを通じて高齢者に課税することは、長年続いてきた1つの世代による別の世代の搾取を是正する1つの方法だ。

 そうした搾取のほとんどは、職場で起きてきた。
 1990年に資産価格が暴落する前に仕事を得たバブル前の世代には、繁栄に至るかなり真っ直ぐな道があった。
 彼らは「受験地獄」を乗り越えた後でいい大学に進み、そこから卒業直後に彼らを雇う大企業に向かった。
 会社員は生涯の忠誠と引き換えに、序列と給料が上がっていく仕事を退職するまで与えられた。

 この幸福なシステムは、万人のためにあったわけではない。
 高度成長の数十年間でさえ、終身雇用モデルは会社員の30~40%程度しか対象にしていなかった。
 だが、終身雇用の信仰はそれより広範囲に広がっていた。
 1990年には、非正規社員に分類される従業員は5人に1人しかいなかった。

 バブルが弾けると、状況が一変した。
 企業は債務を返済し、悪化する収益見通しと釣り合いを取るために徐々に経費を抑制し、コストを削減した。
 当然、ある程度の解雇もあった。
 だが、労働法がもっと柔軟で現存する従業員に対する忠誠心が薄い社会に比べると、日本では職を失う労働者ははるかに少なかった。

■若年失業率は全国平均の2倍超

 そのためリストラの矢面に立ったのは、大手企業に採用されずに非正規雇用に追いやられた日本の若者だった。
 その結果、今では労働者の約35%が非正規雇用あるいはパートタイムとなっている。

 こうした仕事に就いているのは、圧倒的に若い労働者と女性だ。
 若者の失業率は約10%と、全国平均の2倍を超えて


 若者にとって雇用見通しが暗いことだけが問題になってきたのではない。
 若い労働者は、現在の退職者よりも多く国の年金制度に貢献することが期待されている。
 さらに追い打ちをかけるように、年金の支給額も減少する。

 多くの若者は、国の年金制度から完全に身を引いている。
 日本の財政状況――財政赤字は慢性的で政府債務残高は国内総生産(GDP)比230%に上る――を見て、若者は自分たちが退職する頃には支給がゼロになるかもしれないと結論付けているのだ。

 日本の20年間の経済ドラマでは、デフレが悪の根源だった。
 だが皮肉なことに、デフレは救世主でもあった。

■悪の根源でもあり救世主でもあったデフレ

 パートタイム労働者はわずかな賃金しか得ていないかもしれないが、物価が1990年の水準に戻っている時は、それほど苦しくない。
 貯蓄に付く利子は微々たるものだが、下落する物価に照らして評価すると、プラスのリターンを提供している。

 また、政府も巨額の債務を負っているかもしれないが、10年物日本国債の利回りが1%を切っている時には返済が楽だ。

 日本の家計は約12兆ドルの純資産を持っている。
 政府債務残高をわずかに下回り、政府の純債務を大幅に上回る額だ。
 国債の90%以上が日本人によって保有されていることから、問題はデフォルト(債務不履行)のリスクというよりは、
「痛みの配分」だ。

 日本の債務を見る1つの方法は、繰延税金と見なすことだろう。
 日本の貯蓄家は税金を払う代わりに政府に資金を貸し付け、政府が(デフレで抑えられた)歳入で調達できるよりも多くの資金を使えるようにしてきたわけだ。

 政府は今、所得税の引き上げを通して直接的に、あるいは法人税の引き上げを通じて間接的に労働者に課税することができる。
 だが、若者は機会と所得の可能性の減少を通じて既に代償を払っているため、これは不公平に思える。

 代わりに政府は、好況期に富を蓄えた人たちに課税することができるだろう。
 インフレはその1つの方法だ。
 相続税もそうだ。
 実際、政府は相続税の最高税率を50%から55%に引き上げることを計画している。

 世代間の対立は、上記の分析が思わせるほど激しいものではない。
 実際には、高賃金でない仕事を持つ若者はしばしば両親と同居している。
 彼らを差す用語まである――パラサイト・シングルだ。

 祖父母は、自分たちの貯蓄を切り崩して贅沢品や教育費を支払って孫を甘やかしている。
 現在、世代間の一定の所得移転に対する非課税措置によって奨励されているパターンだ。

 世代間のリバランシング(再調整)は行き過ぎることもある。
 72歳の財務相、麻生太郎氏は、高齢者は国の財布を空にしないように「さっさと死ねるようにすべきだ」と言った。
 このようなひどい無神経さは別にしても、次世代の費用を支払うために退職者からお金を強奪することは万能薬ではない。

■将来の稼ぎ手と富の創造者を助けよ

 資金を貯め込んでいる企業から資金不足の家計に資金を移動させるためにも、もっと多くの対応を講じなければならないし、生産性も向上させなければならない。

 実際、長年にわたり低迷ないし減少してきた賃金が、期待されているインフレと歩調を合わせることができなければ、安倍晋三首相の計画は失敗する可能性がある。

 それでも、デフレからインフレに移行することのポイントの1つは、
 将来の稼ぎ手と富の創造者を助けることだ。
 その過程で日本の貯蓄家が多少富を失わざるを得ないとすれば、それはそれで仕方がないだろう。

© The Financial Times Limited 2013. All Rights Reserved. Please do not cut and
paste FT articles and redistribute by email or post to the web.





【気になる-Ⅴ】


_